2026 SS Paris fashion week(パリコレ)期間中の9/30〜10/5、
フランス・パリで行われたコレクションにて、日本発ファッションブランド「grounds(グラウンズ)」「JennyFax(ジェニーファックス)」の
バックヤードヘアメイクを、ラシェンテ甲子園のクリエイティブディレクターであり、日本人美容師・カラーリストとしても活躍する林 麻美が担当させていただきました。
神戸・西宮エリアのヘアサロン、美容室としてパリコレの現場に関わらせていただけることは、美容師として大きな誇りであり、かけがえのない経験となりました。

今年も昨年に続き、2度目となるParis fashion weekでのバックヤードのお仕事。
しかし「2回目だからこそ楽になる」ということは全くなく、
むしろ昨年以上にシビアでプロフェッショナルな現場でした。
昨年同様、ショー直前でのスタイル変更や、ギリギリまでイメージやコンセプトが固まらない場面も多々あり、
そのたびにその場での判断力と柔軟性、そしてデザイナーの頭の中を先回りして想像し、最適なデザインに落とし込んでいく力が求められました。
会場の雰囲気は、まさに“最前線”そのもの。
デザイナーの世界観を一切妥協なく表現しきることが求められる空気の中で、
ヘアチームには、スピードとクオリティ、そしてコミュニケーション能力すべてが高いレベルで要求されます。
デザイナーの意向を瞬時に汲み取り、それを形にするために、モデルの骨格やファッションとのバランスを考えながら、
秒単位で判断していくのは、本当に神経を研ぎ澄まされる時間でした。

今回のヘアデザインは、日本で準備していた当初のプランから大きく変更となりました。
エクステをふんだんに使用し、奇妙なメガネと、触覚のように見えるヘアトップを組み合わせることで、
groundsの持つ独特な世界観を最大限に引き出すスタイルへと進化していきました。
首元でシルエットがくびれるようなデザインや、あえてウェットな質感を重ねることで、
不気味さや違和感を強調し、ファッションとヘアが一体となって“非日常の美しさ”を表現する仕上がりに。
準備段階とはまるで別物のデザインになりつつも、
「これこそが今のgroundsらしさだ」と感じられる瞬間があり、その変化のプロセスも含めて非常に刺激的でした。

現場では約30人のモデルを6チームに分かれて担当しましたが、
一人ひとりのヘアを作り込むのに時間がかかるデザインだったため、スケジュールは常にギリギリ。
リハーサル開始時間が迫っているにもかかわらず、モデルの半分も仕上がっていないという、なかなかのピンチを迎えた場面もありました。
私が入っていたチームは、デザインの方向性を取り仕切るリーダーがいる中核チームだったこともあり、
何度も緊張感が走り、バックヤードにはピリついたムードが漂っていました。
それでも、同じチームのメンバーがそれぞれの持ち場で全力を尽くし、互いに声を掛け合いながら、
ひとつの作品を完成させるために集中していく時間は、本当に尊く、忘れられないものになりました。
「誰か一人の仕事」ではなく、「チーム全体でつくり上げるクリエイション」であることを、改めて強く実感しました。

ショー本番、つい先ほどまでバックヤードで一緒に準備していたモデルたちが、
ランウェイを堂々とウォーキングする姿を客席側から見た瞬間、胸の奥からじわっとこみ上げてくるものがありました。
やり遂げた達成感、緊張から解き放たれる瞬間の安堵感、そしてショーの空気そのものが持つ高揚感。
あの場でしか味わえない特別な感情に包まれ、「またこの場所に戻って来られて本当に良かった」と心から思いました。

今回の2回目のパリコレクション参加は、決して私一人の力では成し得なかったものです。
日本から応援してくれたスタッフ、サロンワークを支えてくれている仲間、
チャンスを与えてくださった関係者の皆様、そしてこの仕事を理解し送り出してくださるお客様。
たくさんの方々のお力添えのもとで立つことができたステージだということを、現場にいる間じゅう何度も感じていました。
最前線でデザインを発信するデザイナーやヘアメイクアーティストたちの想いや情熱に直に触れ、
「美容師として、カラーリストとして、自分にはまだまだ広い未来がある」と感じた瞬間がいくつもありました。
パリでのコレクションの現場と、日本のサロンワークは、一見かけ離れているようでいて、
実は深いところでしっかりと繋がっている——そう強く思います。
ランウェイで生まれたインスピレーションは、日々のサロンワークに確実に反映されていきます。
ヘアカラーのニュアンス、質感づくり、フォルムのバランス、モデルの表情の引き出し方…。
そのひとつひとつが、お客様一人ひとりへの「似合わせ」や「提案の引き出し」として積み重なり、ラシェンテらしいデザインとなっていきます。
未来のための今をつくり、今をより良く生きるために未来を創造していく。
美容とは、無限に広がる希望に満ちた世界なのだと、パリの現場で改めて実感しました。
この経験を必ずサロンに還元し、これからもお客様とともに、新しい美しさの形をつくり続けていきたいと思います。


